ゴルフは常に選択の連続であり、そのホールの攻略法はプレーヤーの数だけあるのかもしれません。プレッシャー下でも最適解を選択し続けるためには、人間の脳の仕組みを少し理解できているかどうかが、ゲームチェンジャーになることもしばしば。
この記事では、ダニエルカーネマンの著書「ファスト&スロー 思考の整理学」を参考に、ゴルファーがどのように思考を整理できるか?これがどのようにスコアアップに役立つのか?考えていきます。
参考著書:Daniel Kahneman『Thinking, Fast & Slow』(ファスト&スロー 思考の整理学)
◆「Thinking, Fast & Slow」の概要
この本は、カーネマンが認知心理学と行動経済学の研究で得た知見をベースに人間の思考についての革新的な研究をまとめた一冊です。
本書では、人間の思考は基本的に「2つのシステム」によって動かされるという概念を前提に、人間の思考は高速で直感的な「システム1」と、より遅く意図的で論理的な「システム2」によって制御されているとし、これら2つのシステムが私たちの判断や意思決定にどのように影響を与えるか?、どのように適切な状況で適切なシステムを使うことができるか?について述べています。
システム1:「ファストシステム」
システム1は自動的で反射的な思考プロセスです。個人の経験、過去の知識、文化的背景などの情報を統合して瞬時に判断を下す活動にあたります。例えば、日常会話での言葉の理解、音の聞こえた方角の感知など、直感的にすぐに反応する能力を持つシステムです。
システム2:「スローシステム」
システム2は、より深い分析的な判断のため必要になる論理的な思考プロセスです。時間を要する、より意図的でより論理的な思考を指します。例えば、電気製品のマニュアルを読んで使い方を学ぶ時、複雑な数式を解く時、議論を深めるために判断や仮説を検証する時などが挙げられます。
・システムの役割は分担されている
2つのシステムは私たちの日常生活において常に起動していますが、人間の脳は限られたリソースしか持っていないため、情報を処理するために効率的な方法を見つけ出そうとします。
そのため迅速に判断や決定を下せるシステム1に依存しがちですが、システム1は物事を簡略化し衝動的に判断を下すため、その過程で誤った判断をすることがあります。
一方、システム2ではより正確な判断をすることができますが、時間と注意を要するためエネルギー消費が大きく、疲れやすい難点があります。
カーネマンは、この仕組みこそが意思決定を下す際の思考の偏りやバイアスを引き起こす大きな問題点になっていると述べています。
【日常の例】
例えば……コンビニでお菓子を買う場面を考えてみましょう。システム1の思考では、美味しそうなパッケージのお菓子に手を伸ばして買ってしまうかもしれません。一方、システム2の思考では値段や栄養成分を確認し、他の選択肢と比較してから最終的な決定をすると思います。
システム1とシステム2の両方を上手に使うことで、より効果的な判断をすることができるので、どの状況でどちらの思考方法を使うべきか本能に任せず、自分で意識的に判断することが重要と言えるでしょう。
【これがゴルフにどう役立つのか?】
瞬時の判断に長けたシステム1ではありますが、その短絡的で衝動的な判断はゴルフコースで常に最良の選択肢になるとは限りません。
しかしこの2つのシステムの特性を理解できたなら、あなたは自分の選択をより注意深く検討し、状況によっては論理的で分析的な判断を行うことができるため、プレッシャー下でも平常心でより最適な判断を下せるようになるはずです。
ではここから、ゴルフにおけるシステム1とシステム2の思考について、そしてゴルフ場でメンタルゲームをマスターするための実用的なヒントを探求していきます。
◆ゴルフでの思考システムについて
・システム1
ゴルフにおけるシステム1は、自然に身についたスイングやライの状況に対する瞬時の反応、よくあるシチュエーションでの瞬間的なショットやクラブの選択などを担当しています。他にも、パッティングで読んだラインが信じられずストローク中に予定になかった打ち方を無意識にしてしまうのもシステム1の仕業と言えます。
・システム2
システム2は、判断の前に複雑な情報を分析し評価する過程が含まれるため、注意深い分析と推論を使ってあなたのショットを適切に分析し、最適な戦略と行動を決定できるようサポートします。例えば、グリーン全体の傾斜を見渡し、細かいアンジュレーションを確認するパッティングのライン読み、パットの強さや距離感を考慮し振り幅を考えるのはシステム2の活動です。
直感的な本能に頼るのではなく、より広い視野を持ち落ち着いて考えることができますが、より意識的な熟慮を要し、より多くの努力と注意を必要とする心のプロセスと言えます。風・ライ・ハザード・細かい距離などを考慮するプリショットルーティンの中ではシステム2の活動が大きく発揮されると言えます。
より合理的で論理的な意思決定プロセスを踏むことが可能になるので、プレッシャーがかかったり、高いストレスを感じる状況ではプリショットルーティンが有用です。
あなたの直感や感情が、実はあなたの判断を曇らせる可能性があるということに気づいていましたか?
プリショットルーティンを知らない方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
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・ブレンドとバランス
コース上では、システム1を素早い直感的な判断に使用し、システム2をより複雑な決定に使用することができます。それぞれの強みを活かし健全なバランスをマスターすることで、メンタルゲームを最適化し、ゴルフコースでより賢い選択をすることができるはずです。
コースで決断に迷う場面は誰にでもありますよね。パットのラインがどちらにも曲がりそうに見えたり、微妙な距離のクラブ選択に迷ったり、手堅くプレイするか、リスクを冒して攻めるかの選択に翻弄されたりなど。
これらの瞬間で、もしシステム1と2の思考をブレンドして考えられたなら、あなたのメンタルゲームは劇的に改善されるはずです。つまり直感的な意思決定(システム1)と方法論的かつ複雑な情報に基づく選択肢(システム2)のバランスを意識的に調和するんです。
・なぜこれが重要?
これら2つの思考戦略を統合することで、1つの思考に完全に頼りきってしまう欠点を回避できます。システム1に完全に頼ると、長期的に有効でない衝動的な意思決定を導く可能性がありますし、一方システム2に頼りきると、考えすぎたり、過剰な分析、遅い意思決定を引き起こす可能性があります。
組み合わせることで、意思決定の改善、自信の向上、そしてその能力を獲得できます。「よくある簡単なショットにはシステム1を使用し、狭いフェアウェイの攻略やラフからの難しいショットにはシステム2を使用する。」まずはここから意識的に始めてみてはいかがでしょうか?
・ゾーンにも影響を与える?
ゾーンとは、スポーツ選手の集中力が高まり最高のパフォーマンスを発揮できる状態のことを指します。
ゾーンに入ると、選手達は直感的で素早い判断ができるため反応までの時間が短くなります。この状態はシステム1の思考が優位になるため、選手は無意識に高いパフォーマンスを連続して行うことができます。
しかしここで注意したいのがゾーンの崩壊です。選手が直感的で短絡的な思考に過度に頼っているとゾーンが崩壊してしまう可能性があります。ゾーンにいる選手は自信が強く、無意識的なプレーがうまくいっているため、システム1の思考に頼る傾向が強まります。
ご存知のようにゴルフは常に状況が変化する中で行われる競技です。ゾーンにいるときでも、予期せぬ状況や困難な状況が発生することがあります。このような場面では直感的な思考だけでは対応が難しく、より論理的で分析的なシステム2の思考が必要となるでしょう。
ゾーンに入った後もそれを維持し続けるためには、バランスの取れた思考が必要です。選手は常に自己観察を行い、状況に応じて適切な思考方法を使い分けることが大切と言えるのです。
・メンタルゲーム
ゴルフのメンタルゲームとは、心理的な側面を含めたゴルフをプレーするための能力やスキルを指します。メンタルゲームは、プレーヤーの集中力、自信、ストレス管理、意思決定、プレッシャーへの対処など、さまざまな心理的な要素に影響を与えるため、あなたのパフォーマンスと強く関係しています。
メンタルゲームをマスターするということは、自分のシステム1とシステム2のバランスを見つけ、自信と冷静な判断力を維持しながら、最適なパフォーマンスを発揮することではないでしょうか。
次に難しい状況に直面したときは、この2つの思考戦略を組み合わせて最適なパフォーマンスを発揮できることを覚えておいてください。
では、システム1とシステム2をどのように活かせば、ゴルフのパフォーマンスを向上させることができるのでしょうか?
2へ続く…
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コースマネジメント術②思考の整理学、実践編